年頭にあたり

あけましておめでとうございます。

年頭にあたり、新年2021年を迎えた今の想いを書き留めます。

思い返せば2016年に新事業戦略を発表し、以来一貫して3つの戦略を推進してきました。すなわち、SIM事業、FPoS事業、ローカル無線網事業の3つです。

2020年は社会的にはコロナで明け暮れた年となりましたが、社内的には3つの戦略それぞれが大きく進展した年となりました。

 

SIM事業では、6月30日に当社の主張が認められる形で総務大臣裁定が下り、ようやくデータ通信のみならず、音声通話に関しても原価ベースで調達できるようになりました。年末までには全てまとまると思っていましたが、最終決着は多少お預けになりました。とは言いながら、大臣裁定が結果的に履行されないということは存在し得ないことなので、その点は心配しておりません。

 

大臣裁定の翌月には合理的かけほプランを投入し、また12月10日には合理的20GBプランを投入。8割以上のお客様がMNPで入ってきていただいており、メイン回線を切り替えていただけていることを一番嬉しく思っています。また地域分布を見ても、従前の東名阪中心から都道府県の人口分布とほぼ同じ分布になっており、その点でも、ようやく皆様に受け入れられるサービスを提供開始できたと感じています。

 

大臣裁定以前のMVNO SIMは、タブレットやモバイルWiFiルータのようなデータ通信専用でしか魅力あるサービスを実現できず、せいぜい通話機能はあるけれどもほとんど電話は使わない人向けのものでした。しかも、格安SIMと言われながら、必ず安くなるかと言えばそんなことはなく、電話を平均的に使う人にとっては、むしろMNOの方が安くなってしまうケースもありました。

 

これに対して、大臣裁定により、音声通話機能を付けるコストが8割下がり、また、通話自体もこれまでに比べて遥かに低コストで調達できるようになったことから、音声定額や音声準定額を含めてスマホ用に魅力ある価格でサービス提供できるようになったのです。

 

これにより、従前は市場全体のせいぜい2割程度がターゲット市場だったのが、大臣裁定により8割がターゲット市場へと変わり、実に4倍の市場を相手にできるようになったのです。特に合理的20GBの需要が強く、本人確認、MNPのSIM焼き、さらに出荷が年末年始を含めて忙しい状態が続いており、お客様対応に全社総力をあげて対応しています。

 

当社の事業モデルは、お客様が増えれば増えるだけ着実に利益貢献するため、これまでの四半期決算でご説明している通り、月次ベースの安定的黒字化に向けて着実に進捗しています。

 

メディアの中には、価格競争が始まると体力勝負になるという論調があります。これは通信事業においては、お客様が増える際に最初はキャッシュとしてマイナスが発生し、その後継続的な売上が発生することで徐々に回復するという基本的なモデルがあるからです。例えば端末インセンティブや販売店インセンティブなどで最初はマイナスが生じます。

 

しかし当社の事業モデルは、お客様にご契約いただいたDay 1から利益貢献します。なぜなら、初期にかかる費用、例えばSIMのコストや販売店インセインティブは、初期手数料の内数で賄っているからです。MVNO事業者には、特に大手の事業者は、携帯キャリアに近い販売店インセンティブ、すなわち数万円のインセンティブを出しているところもあるらしいですが、それでは利益貢献するまでに何年かかるかわかりません。当社の事業モデルはそのようなものとは大きく異なるのです。長くなりましたが、要は着実にお客様が増えれば、Day 1から利益貢献してくるので、着実に月次黒字化に向けて進んでいるということです。

 

そして2番目はFPoS事業です。FPoSを端的に表現すれば、「国から認定を受けてスマホに電子証明書を発行する最初のプラットフォーム」となります。電子署名法という法律において認定を受けた認証局が発行する電子証明書を、スマホ内のHSM(ハードウェアセキュリティモジュール、米国NISTのFIPS認定済)に秘密鍵を管理する形で発行するものです。

 

電子証明書に関しては大きく2つの法律がありますが、一つがマイナンバー法で定めるマイナンバーカード、そしてもう一つが電子署名法です。例えば犯罪収益移転防止法(銀行等が不正防止のために行う本人確認等はこの法律で規定されている)では、電子署名法の認定を受けた電子証明書の検証を行うことで、必要な本人確認は完結する仕組みになっています。携帯電話不正防止利用法でも同様です。

 

今後、社会のデジタル化を進める上で、電子署名法の重要性はますます高まりますし、様々な法律が電子署名法の認定電子証明書の効力を認めることになります。

技術面では既に実証実験等を通じて実現していますが、最大のチャレンジは、電子署名法の認定を受けることです。しかもこれまでの認定は、プラスチックのICカードベースのものばかりでしたので、スマホでは初の試みです。電子署名法は、総務省、経産省、法務省の3省が所管されているのですが、スマホで初ともなると、様々な論点、特にセキュリティ面に関して様々な協議を行ってまいりました。また電子認証局を立ち上げ、かつ稼働させて初めて認定監査をしていただけるので、その準備を進めておりますが、今月、正式に3省に対して認定の申請を行えるところまで漕ぎ着けました。私は当社の上場時にはCFOとしてプロジェクトをマネージした経験がありますが、正直なところ認定を受ける準備に比べると、上場準備はずいぶん軽かったなあと今となっては感じていますが、いずれにしてもほぼ準備は整いました。正式に申請した段階で改めてご案内いたします。

 

また社内的な準備に並行する形で、FPoSのデジタルIDとしての価値が評価され始めています。昨年国会においてスーパーシティ法案が成立しました。デジタル化が進んだ未来都市を作る、しかも必要な規制緩和を国家戦略特区として行うと言うもので、私自身、いくつかの地域のスーパーシティプロジェクトに関わっています。中でも群馬県前橋市のスーパーシティプロジェクトは、まえばしIDという新しいデジタルIDを作り、その上で様々な取り組み、具体的には教育、医療、福祉、交通、環境等の取り組みを行います。まえばしIDは、マイナンバーカードと紐付ける形でスマホに電子証明書を発行(電子署名法認定の証明書)、さらに顔認証を加えたIDです。これにより、スマホと顔を使い分けたり、ダブルで使ったりすることで、安全性と利便性とを高めたIDとします。第1四半期決算説明会において次世代型IDとしてご紹介し、登録するところのデモをご覧いただきましたが、まさにあれはまえばしIDです。前橋市は既にまえばしIDを基礎としてスーパーシティを構築することを決定し、公表していますが、その影響で、他のスーパーシティ候補地域からまえばしIDを使いたいとの申し入れを受けています。まえばしIDというのも他地域では妙なので、my IDという名称で提供することになっています。


FPoSは元々は金融庁FinTech実証実験ハブから生まれたプラットフォームであり、スマホで安全な金融取引を行うことを目的としています。この目的は今も変わっていませんが、スーパーシティにおけるデジタルIDのプロジェクトは、金融に限らず教育、医療等の様々な領域における利用法を具現化するプロジェクトでもあるため、FPoSの機能強化に大変役立っています。事業モデル的には、FPoS(my ID)の利用範囲が、金融から他の領域に広がることを意味しており、プラットフォーム利用料の対象が広がることでもあるため、収益性をあげることに直結します。スーパーシティは今年3月までに政府に申請する日程なので、当社のFPoSチームは、電子署名法の認定監査申請に向けて取り組むチームと、スーパーシティのmy IDとしてデジタルIDをベースにしたスーパーシティ申請に向けて取り組みチームとに分けて対応しています。とは言っても、きっちり分けることはできないので、年末年始を返上しての取り組みになっています。

 

そして3つ目のローカル無線網事業ですが、ローカル5Gの実証案件、具体的には滋賀県の高島市民病院における実証を当社で受け持っており、年末また年始から担当者らはパートナー企業とともに現地に詰め、準備を進めています。総務省のローカル5G実証プロジェクトとして、19案件に今年度予算が下りていますが、その中でも中核病院における実証はこれが唯一のものとなっています。当社は米国において既にショッピングモールにおけるローカル無線網事業を立ち上げていますが、それらのノウハウを生かした取り組みです。1月末にはPHSがなくなることから、構内PHSを使っている病院では、次をどうするのか、重要な課題になっています。もちろん、コロナ対応でご苦労いただいている状況ではありますが、構内PHSの置き換えは、ローカル4G/5Gしかないので、当社はこの領域にパートナー企業とともに取り組んでいます。

 

ローカル4Gは年末に周波数帯が3倍に広がったことから、ようやく実用として、つまり商用サービスが開始できるようになりました。これまで米国で培ってきたノウハウや技術を使い、日本におけるローカル無線網事業がようやく商用ベースで始まる年になります。

 

以上、想いを書いていたら長文になってしまいました。

本年もよろしくお願い申し上げます。

 

代表取締役社長

福田 尚久

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